あの夏の空に掌をかざして
 だけどーーーーー。


 本当は、忘れないで。いかないで。あたし以外を好きにならないで。


 消えたくない。死にたくない。ずっとずっと、日向の側にいたい。


 そんな願い、もう叶うはずもないけれど。


 あたしの体はゆっくりと後方に進んで、数秒後には、トラックにはねられてしまうだろう。


 周囲がスローモーションに見える。


 死ぬときは走馬灯を見るらしいけど、あたしには目の前の日向と、これまでの日向との記憶しかなかった。


 あぁ、あたし、本当に日向ばっかだな。


 こんなときだけど、そんなことを考えて、ふっと笑った。
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