あの夏の空に掌をかざして
「ーーーーーー行かせないよ?」


「へ…」


 ぐいっと、あたしは力強く引っ張られる感じがして、ぐわん、と視界が傾いた。


 日向に引っ張られていると瞬時に理解したが、体は思うように動かなかった。


 だけど、間近に迫ったトラックは、もう避けることが出来なくて、あたしは瞳を閉じた。


 日向も諦めたように、あたしを抱き締めた。


 そして、唇に、柔らかい何かが押し当てられている感覚がした。


 それが日向の唇だと、あたしはとっくに理解していて、最期に微笑む。


「愛してる」


 日向に守られるように抱き抱えられていたけど、体にとてつもない衝撃を受けたことを最期に、あたしはもう何も考えることをしなかった。


 これまで感じたことのない幸福感を感じながら。


 大空は、どこまでも澄んだ橙色に輝いていた。
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