あの夏の空に掌をかざして
 連れてこられたのは、最近若者に流行っている古着屋さん。人気過ぎて、他にも店舗ができたらしい。


「え、えーと、それ全部着るの?」


 到着するやいなや、楓はあたしをほっぽって、服選びに熱中してしまった。そして今の状況だ。楓の両手には、抱えきれないほどの衣類があった。


「当たり前でしょ!早く試着室行って!」


 楓に圧されて試着室に入る。楓が抱えてきた服は、試着室のハンガー掛けにも収まりきらない。


 一つため息をついて、着替え始める。


 こんな多かったらいつ選ぶの終わるのかな…。外には、まだいっぱい服持ってる楓いるし…。はぁ。



***




「お会計ありがとうございましたー」


 結局、服選びは三時間ぐらいかかって、楓の着せ替え人形タイムが漸く終わり、やっと服を買うことができた。


 何故かホクホクしている楓とは違って、あたしは精神的ダメージが凄まじい。


 でも、楓のお陰で、デートに行くための服が買えたからな。感謝しないとね!


 隣を歩く楓を呼び止めて、あたしは精一杯の感謝の気持ちを言葉にする。


「ありがと楓…楓がいなかったら、あたし今日も何も出来なかったと思う、ありがとう!大好きだよ!」


 思いっきり笑顔で楓を見上げると、楓は頬をうっすらと赤く染めて、照れ隠しなのか、「あかりがそんな事いうなんて、明日は槍でも降るんじゃない?」なんて言ってるけど、顔は嬉しそうだ。


 そんな楓の素直じゃないところも、全部含めて"楓"だから、あたしはえへへと笑うだけで、それ以上何も言わなかった。


「これからどこ行く?」


「カフェ行ってー、ゲーセン行ってー、カラオケ行きたかったけど、もう時間ないよねー」


「いいじゃん!いこいこ!」


 あたし達はそんな話をして、今日は部活も宿題も何もかも忘れて、めいいっぱい楽しむことにした。


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