あの夏の空に掌をかざして
 すぐに出るのは、なんだか気持ちが乗らなかったから、ゆっくり全身を洗って、ゆっくり水気を取って、それから出ることにした。


 そういえば、なんで日向がいたんだろ、お母さんはどうしたのかな。


 台所に戻る間に、そんな事を考える。


「あかりちゃん遅かったね、のぼせなかった?」


 台所には、夕食が置いてある所とは向かいのイスに、日向が座っていた。左肘をついて考え事をしていたけど、あたしに気付いて話しかけてくれた。


「うん、だいじょぶ!わあ、美味しそう!!」


 あたしもイスに座って、いただきますと手を合わせる。


 夕食はラップが取られていて、出来立てのように湯気が昇っている。鼻腔をくすぐるデミグラスソースの匂い。途端に食欲が増して、一気に胃のなかに夕食をかきこむ。


「ん~!おいひい!!」


 いつもなら、「こら、口に物入れて喋らない!」とか言う日向だけど、今日は微笑を浮かべただけだった。あたしが食事をする姿を見て、何が楽しいのか分からないけど。


 何でこんな見るの…食べてるとこ見られるのって、こんな恥ずかしいんだ。あたし、変な食べ方してないかな、大丈夫かな…。


 ご飯の味も分からなくなるくらい、差恥心でいっぱいだった。
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