あの夏の空に掌をかざして
ちゃんと口の中の物を飲み込んでから、日向の方に向く。


「ねぇ、何で日向がいるの?お母さんは?」


「ああ、おばさんは今日から1週間出張らしいから、面倒みてくれって頼まれたんだ」


 それ普通、最初は娘に言わない?お母さんに突っ込みたいけど、いないからしょうがない。


「これから毎日、夏休み終わるまでご飯作りに来たりするからよろしくね」


「ありがとごめん~、でも日向がいてくれたら心強いよ~」


 ふっと微笑んだ日向を横目に、またご飯をかきこみ始める。そんなあたしを、日向は頬杖をつきながら、ずっと微笑ましそうに眺めているだけだった。


***



 気まずい夕食をなんとか食べ終えて、日向が帰る事になったので、あたしは玄関先まで見送りをすることにした。


「おやすみ、ありがとね…夕食と、あと、心配してくれて」


 精一杯、気持ちを伝えようとするけど、どうしても恥ずかしくて目も合わせられず、語尾も小さくなってしまう。


 そんなあたしを知ってか知らずか、日向は笑って、あたしの頭を撫でた。


「ううん、無事でよかったよ、おやすみなさい」


 微笑んで、手を振ってさよならをする。ドアが閉められると、とてつもない孤独感に襲われた。家は隣同士なのに、会えないことが、こんなにも寂しい。


 さよならしたばっかなのに、もう会いたい。触れられたところがまだ冷めなくて、日向の事を考えるだけで、こんなにも胸の奥がぽかぽかする。


「…日向、大好き、大好き、…おやすみなさい」


 その日は、柄にもなく、独りの寂しさに耐えるために、ぬいぐるみと一緒に寝たのだった。


 その日は、なんの夢も見なかった。
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