あの夏の空に掌をかざして
 次のコーナーは、深海魚がいっぱい居るところだった。明るいところから暗いところへ、また逆戻りだ。明るさに慣れていたので、暗くて周りが見えない。


「なんか、人がいっぱいだね」


 あたしが言うと、日向はあたしの右手を握った。


「今だけ繋いどこう、迷子になったら大変だから」


 日向はそう言って、また歩き出す。あたしもそれについていく。


 日向の表情が見たくて右上を見上げたけど、暗くて何も分からなかった。


 日向……、日向にとっては、ただの何気ないことでも、あたしにとっては、こんなにドキドキしちゃうくらい、嬉しいことなんだよ……。


 伝えられない気持ちを胸に秘めて、あたし達は深海魚たちを見回った。


「これすごい目が大きい!……ちょっと怖いな」


「あかりちゃん、これとかすごい光ってるよ」


 深海魚は、なかなかにグロテスクで不思議な姿形をしていて、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


「じゃあ、結構色々見たし、そろそろでよっか?」


 日向の提案に、あたしも賛同して水族館を出ることにした。


 時計を見ると、ちょうどお昼過ぎだった。
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