あの夏の空に掌をかざして

 水族館を出て、宛もなくぶらぶらと歩く。


「ここらへんに、美味しい定食屋さんがあるんだって」


「へぇ!じゃあそこ行こ、日向!」


 日向の情報によると、この近くに[さかのぼり]という、老舗の人気店の定食屋さんがあるらしい。創立100年ということらしかった。


 お腹がペコペコだったあたしは、反論することもなく、そこに行くことにした。ネットで検索すると、歩いて5分くらいらしい。以外と近かった。


 二人で歩き出すと、スルっと握っていた手が抜けていく。


 っやだ……まだ、まだ握ってたい!!


 そう思うがはやいか、あたしは日向の左手を思いっきり握りしめていた。


「あ、あかりちゃん?」


「まっ……まだ、手、繋いどきたい………です…」


 やった後で、差恥心と照れと、あと他のなにかが襲ってくるが、あたしは、それでもまだ、日向と手を繋いでいたかった。


 恥ずかしくて顔をうつ向かせる。日向の顔が見れない。


「うん、いいよ。じゃあ、もう少し繋いでおこうか」


 そう言って、歩き出す。あたしは、嬉しくて舞い踊りそうになった。


 あたし、言えた!思ってること、ちゃんと言えたよ!!


 嬉しくて、定食屋さんに着くまで、あたしの心はずっと晴れやかだった。
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