あの夏の空に掌をかざして
「はい、これ買ってきた」


 日向が戻ってきて、あたしにココアを渡してきた。あたしの好きな飲み物だ。夏でも、夕方からは案外冷えるものだ。それを考慮して、ココアを買ってきてくれた。


 やっぱり日向は、あたしのこと何でも分かってくれてる…。


 口に含むと、暖かいココアの甘味が、口いっぱいに広がる。


「ありがと、あったかい、美味しいね」


 日向はコーヒーを買ったみたいで、あたしの右隣に座って飲んでいる。あたしは、ブラックなんて苦くて飲めないけど、そこも日向との差に感じられて、少しだけ、さみしい。


 時計を見ると、もう6時前。


 日向も確認したみたいで、「もう、帰ろっか」と言った。


 ……やだ、あたし、まだ日向と一緒にいたい。


「……日向…あともうちょっとだけ、一緒にいよ?」


 寂しくなって、日向の裾をくいくいと引っ張りながら、おねだりをする。日向はため息をついて、困ったように眉を八の字にして、「ダメだよ、門限もあるでしょ?」と言った。


 日向は立ち上がり、ふて腐れるあたしを気に留めることもなく、帰る準備を進める。


「ほら、歩ける?痛いならつかまっていいよ?」


 日向に手を差し出される。あたしはふて腐れたまま、だけど置いてかれるのも嫌なので、躊躇うことなくその手を取る。


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