あの夏の空に掌をかざして
「じゃあ、少し寝てた方がいいよ」


 日向は、こんなあたしにそう言って、自分の方に寄りかからせる。一瞬ドキンと胸が高鳴ったが、日向は何ともならない。その事に、少しだけ悲しくなった。


「ん……りがと、ひなた」


 実際には、不安と恐怖で内心落ち着かず、そこまで眠くはなかったのだが、日向にくっつけることが嬉しくて、結局あたしは日向に甘えることにした。


 リラックスして体の力を抜き、日向に体重を預け目を閉じると、少しだけ眠くなってきた。




 その時、


「あれ?あかりちゃん、香水つけてる?」


 日向の声がしたかと思うと、右側の髪の毛が、一束優しく引っ張られる感覚がした。


 日向の顔が近づいてくる気配がして、そしてーーー、


 ちゅっ……と、控えめなリップ音が聞こえた。


 ……え?なに……?なんで…………日向が、あたしの髪に、きすなんて……。


 早鐘を鳴らせる心臓を止める術を、あたしはもち合わせていなかった。


 結局、一睡も出来ないまま、起きることも出来ずに、あたしは狸寝入りを続けるのだった。

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