あの夏の空に掌をかざして
 あたしは日向に断ってから、水族館のトイレに来た。


 手を洗い流しながら、水族館での出来事を思い返す。


 水族館では、色んな魚を見て、ちょっとしたハプニングもあったけど、すごい楽しかった。


『びっくりした?これナマコなんだって』


 ぼーっとしていたあたしを元気付けるために、目隠しして、あんなイタズラまでしてくれた日向。


 いつもなら嬉しいはず、なのに。


「……やっぱ、夢の内容と瓜二つ」


 憶測が、確信に変わっていく。モヤモヤと、霧がかかったように曖昧だったことが、はっきりとした現実味を帯びて、これは真実なのだと訴えてくる。


 っそんなわけない!日向が、日向が死んじゃうなんて!


 あたしは、その事実を認めたくなくて、かぶりを降って否定する。


 鏡に映るあたしは、すごく苦しそうで、洗面器に両手をつきながら、うつ向いて下を睨み付けている。


「嘘……日向はしなないんだから……」


 誰もいないトイレに、あたしのか細い声が響いた。

< 65 / 203 >

この作品をシェア

pagetop