あの夏の空に掌をかざして
 日向の提案により、定食屋さん[さかのぼり]に来た。本当は、止めようかとも思ったけど、ここまで来たら本当なのか確かめようと思った。


「いらっしゃーい」


 古い建物も、人の良さそうなおばあさんも、定食も何もかもが、あの夢と一緒だった。


 一緒だ…。何もかも……、やっぱり、あれは予知夢なの?


「あたし……魚フライで」


「僕はトンカツ定食で」


 出てきた定食も、やっぱり同じ。一口食べると、フワフワなアジの身の香ばしさが、口いっぱいに広がる。


 ……味まで覚えてる。


 ここまで来ると、もう、「あたしは時を遡った」という事も真実なのかもしれない。


「~おいしい!!」


 抑えきれなくて、ついつい口にしてしまう。予知夢かどうかの恐怖よりも、今は目の前にあるアジフライを堪能したい。


 ん?まてよ?そうなったら次は……。


「へぇ、じゃあ、僕にも一口くれない?僕のもあげるから」


「っ!」


 日向が物欲しそうにこちらを見つめてくる。


 あたしは、その場をなんとか乗りきって、お会計にいく。

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