あの夏の空に掌をかざして
〈時遡町の都市伝説の始まり〉
霊的な力が強いとされている時逆町、その都市伝説「時遡り」は、どうやって始まったのだろうか。
それは、奈良時代よりも前まで遡ると云われてい。
ある日、現在の時逆町に住んでいた女の子がいた。時逆町は霊的な力が強く、大人たちからは、夜は出歩くなと言われていた。黄昏時や逢魔が時からは、魔物や人間でない者たちが出てきて、子供は連れ去られていってしまうからだ。
けれど、その日は友達と遊ぶことに夢中になっていて、暗くなってから帰ることになってしまった。
暗闇で足元もボンヤリとしか見えない月夜の夜道を、女の子は歩いていた。
その時、道の奥から魔物が出てきて、女の子は2度と家に帰ることはなかったらしい。
翌日、帰らない娘を心配していた母親は、娘が魔物に連れ去られてしまったことを知る。
葬儀をしても何年経っても娘を忘れられず悲しんでいた母親は、丁度霊的パワーが強くなる年に、不思議な体験をした。
そう、それが「時遡り」の伝説の始まりだといわれている。
あの後、母親と娘がどうなったのかは、分かってはいない。
けれど、母親の悲しみや苦しみは、ずっとずっとその土地に留まり続けていて、今でも、霊的パワーが強まる年に、人を引き寄せて時を遡り続けさせるらしい。