今日も一条三兄弟と××な日々。
「茉莉ちゃん。庭にいるふたりのコップも持ってきてくれる?」
「はーい」
私は拭き終わった食器を戸棚に閉まって匠さんと聖の元へ。リビングから繋がる庭は網戸だけになっていて、ここからでもふたりの姿が見える。
ベンチに親子で仲良く座って微笑ましい光景だなあと思いながら網戸に手をかけると……。
「もう10年も経つなんて早いよな」
そんな匠さんの声が聞こえてきて思わず手が止まってしまった。
「あれからお前は一度も狼になってないだろ?」
「………」
聖はただ黙っているだけ。
「三人の身体を調べた時、お前だけやたらと数値が高かったよ。異常なほどにね」
盗み聞きしちゃダメだって分かってるけど声がかけられない。しかも匠さんが真面目な顔で話してるから余計に。
「聖、風船と同じだよ。少しずつ空気を抜いていれば風船は破裂することはない。昴や晶みたいに少しでも変異してる時間があれば人間との血もバランスが取れる」
「………」
「でもお前は10年間狼になってない。いや、それを拒絶し続けているだろ」
「………」
「外に出たいものを無理やり閉じ込めていると、一度力を解放した時の影響は凄まじいよ。もしかしたら力を制御できずに我を失ってしまうかもしれない」
ドクン、と私の心臓が跳ねる。
匠さんの言葉がひとつひとつ重たくて、それをずっと抱えている聖はもっと重たい。
「そうならない為にも狼に……」
「俺は狼にはならない、絶対に」
月明かりの下にいる聖はとても強い顔をしていた。
……だけど、私には泣きそうに見えたのはなんでだろう。