先生、僕を誘拐してください。
三、交差して、迷路みたい。
本音君が現れるようになっても、私の日常は変わらない。
ただ、奏はやっぱり私の前でマスクして喋らないし、学校までの坂がきつくて自転車を押して歩けば校門に到着するころには汗びっしょりでタオルは必須だ。
日常は変わらないけれど、季節が来れば少しは変化してくれる。
それだけで満足だと、自転車を押す。
毎朝、これだけは覆したい日常だった。
「押すよ」
ふわりと天使の羽根の様に軽くなった自転車に、思わず振り返る。
すると、爽やかに笑う朝倉一の姿があって、平伏する。
「……ストーカー」
「直球だね。今日はたまたまだよ。貸して」
自転車のサドルを握られ、自分の手と触れたくないと離してしまったせいで奪われた。
「最近、私モテモテだ」
「俺以外にもストーカーがいるの?」
「敦美センセ」