『誰にも言うなよ?』
◇
――同時刻、別所にて。
「あ、狼谷。ちょうど良かった」
狼谷と青山雅人が廊下で鉢合わせになる。
「どうかしましたか」
「素子見なかった?」
「……はい?」
「教室にいないんだ。待ってろって言ったのに」
「照れて帰っちゃったんじゃないです?」
「マジ……?」
「下駄箱に靴があるかどうか確認してみたらどうですか」
「それもそうだな」
二人が昇降口へ向かう。
「なあ、狼谷」
「はい」
「なんで素子と保健室行ったの?」
「……どうしてそれを知ってるんですか?」
「携帯にまわってきたんだよ。今朝のラクガキが」
「青山くんのところにまで?」
「ああ。アレ、広がってるみたいだぞ」
「そうですか」
「そうですかって……そんなのんびりしてていーの?」
「あれは木乃さんがケガしたから、付き添いですよ」
「ケガ?」
「誤解されるようなことは、なにもしてません」
「……だったら、ちゃんと解いてやれよ。じゃなきゃ、素子が可哀想だろ」
狼谷はなにも答えない。
そんな狼谷を見て相変わらず薄気味悪い男だな、と雅人は思った。
「ここですね、木乃さんの靴箱は」
狼谷がそういうと、雅人が靴箱の扉を開く。