『誰にも言うなよ?』
◆
「…………」
スマホの時計を確認し、素子が一向に現れないことを不審に思った雅人は本屋を出て学校へ戻った。
「鈴木」
校門で出会ったのは、雅人のクラスの委員長である鈴木だ。
「委員会は?」
「え……終わったけど」
雅人に話しかけられて戸惑う鈴木。
雅人が学校で素子以外の人物に自分から誰かに話しかけることは、珍しい。
「いつ?」
「に……20分前くらいかな」
「なに?」
「ヒッ……」
雅人に睨まれ思わずひるむ鈴木。
雅人は学年一人気があるだけでなく、喧嘩も強いことで有名なので彼を恐れるものも少なくない。
「サンキュ」
「え……」
唖然とする鈴木を残して雅人は昇降口へ向かう。
素子の靴箱には、上靴だけが入っていた。
それが意味するのは素子はもう校内にはいないということだ。
思えば金曜日、素子の靴箱に外靴はおろか上靴が入っていなかった。
だからあの日……。
素子が資料室に閉じ込められた日
雅人が『素子が帰った』と判断したのは、軽率だった。