『誰にも言うなよ?』
「あんたは、あのとき靴箱が空なのを見て、素子がトラブルに巻き込まれたって……そう勘付いたんだよな?」
振り返るとそこに、狼谷がいた。
腕を組んみ壁にもたれかかっているのだが――。
いつも見せる猫背で頼りないシルエットではなく、眼鏡の奥からこっちを見る目つきは狼のような鋭さがある。
「今頃気付きましたか。青山くん」
「素子、待ち合わせ場所に来ないんだ」
「君でも女性に相手にされないことがあるんですね?」
クスッと笑う狼谷に苛立ちを覚える雅人。
「……冗談言ってる場合じゃないだろ」
すると、狼谷から笑顔が消えた。
「ああ。急がないとやばいかもな」
「なにか知ってるのかよ、あんた」
「あいつ、どんどん学校から離れてる。それもすごい速さで。車で移動してるらしい」
「どうしてそんなことがわかる?」
「説明はあとだ。追いかけるぞ」
「追いかけるって……あてはあんのか?」
「まかせろ。お前は、先に裏門にまわってろ」
「は?」
狼谷はニヤリと片方の口角をあげた。
「ビビってチビんなよ?」