『誰にも言うなよ?』


また危険な目に合うんじゃないかという恐怖が、やわらいでいく。


って、

いつまでも、ここにいられない。


おばあちゃんが心配しているだろう。


「わたし、そろそろ帰ります」

「送るよ」


狼谷先生が、立ち上がった。


「へ?」

「ついでだ。うしろ乗ってけ」


ここに泊まるの諦めたのかな。


「……わかった。雅人、またね」

「素子」

「?」

「これから、朝、迎えに行くから」

「えぇ!? いいよ、そんなの……遠いし」


断ろうとしたら、

「甘えとけ甘えとけ」

うしろから先生に髪をくしゃくしゃにされた。


「なにすんの……!」

「はは。いつものおさげはどうした?」

「あの変なやつにほどかれた」


ゴムは、さっきのマンションに置いてきた。

眼鏡はかろうじて回収できたのでよかったが。


「それでか。プードルみたいだな」

「はぁ!?」

「かわいいかわいい」

「て……テキトウなこと、言わないでよ」

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