『誰にも言うなよ?』



顔をあげると、

入口から狼谷先生がこっちを覗いていた。


……いや、あの、先生。


「先生が。なにしてるんですか」


ここ、女子トイレなんですけど。

覗かないでくれますか。


「ナイスツッコミをありがとう木乃」


(は……?)


「だが、心配には及ばない。なぜなら今は授業中だから」


いやいや。

授業中だとか休み時間だとか関係ないです。

やってることがヤバイです、変質者です。


「とはいえ、この学校は不真面目なやつが多いからなぁ。授業中ウロついてる生徒には遭遇するかもな?」


ハキハキと話す狼谷先生。

……別人みたいだ。


もしかしてこれが先生の素なの?


って、ちょ、


「先生、なんで入ってくるんですか!?」

「覗くよりは中に入った方が自然かと」


全然自然じゃないです出ていってください。


「なにしてんの?」

「……掃除です」

「こんな時間に? 授業サボって?」

「うっかりゴミ箱を倒してしまって散らかったので、急いで片付けてたところです」


うん。我ながら無難な言い訳ができた。


「ほう。ゴミ箱を」


片眉をあげる先生。


「はい。ゴミ箱を」


納得したなら、はやく行ってくれ。

いつまでも女子トイレに滞在するな。

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