『誰にも言うなよ?』
「……いない、」
そろそろチャイムが鳴りそうだ。
遅刻は避けたいから一旦引き返そう。
千夏と行き違ってもう戻ってるかもしれないし。
そう思い、振り返ると――。
「げ、」
「おはよう木乃さん」
憎き腹黒会長様と鉢合わせになった。
この男は、いまわたしが一番会いたくない人といっても過言ではない……。
「おはようございます」
「顔を見て『げ』なんて言われたの、初めてだよ?」
どうもすみませんでした。
「なにしてるの? この階に一年生は用事なんてないはずじゃないかな」
「そうですね。戻ります」
「……待ってよ」
「え?」
な、なんで手首掴まれてるの?
「離し……」
振りほどこうとすると、腕を引かれ小声で耳打ちされた。
「狼谷のことで話がある。来てくれるよね?」
――!?
(どうして今になって先生の名前が出るの?)
もう、この学校には、いないのに。
「さあ。行こう」
手を振り払えない。
「……はい」
二人でひとけのない方へと向かう。
わたし……
どこに連れて行かれるの?