『誰にも言うなよ?』
――土曜日。
朝、9時。
「起きてください、センセイ」
どうやらわたしの仕事は雇用主を叩き起こすところから始まるらしい。
「……ん?」
事務所のソファで眠っている先生を揺さぶり声をかけること数分。
やっと目を覚ましやがった。
テーブルの上の灰皿には吸い殻がてんこもりだし、なんかお酒飲んだあとみたいなグラスはあるし、ここはアンタの家かと言いたくなる。
「おはようございます。事務所の扉、鍵かかってなかったですよ。不用心にも程があります」
「ちゃんと出勤してきたんだな。偉い偉い」
そういって、大きなあくびをする。
少しだけひげが伸びている。
無精髭というやつだろうか。
だらしなく見えるがこれはこれでカッコイイ。
起こしちゃ悪かったかな……?
いや、でも、雇用主が寝てちゃなにすればいいかわからないし。
「また掃除すればいいですか? 今日こそここをピカピカにしてやりますよ……!」
張り切っているのは
なにも掃除好きだからなわけではない。
目の前に、あなたが、いるから……
なんて言えるかバカヤロウ。
「ほう。やる気満々だな。エプロンなんてして」