『誰にも言うなよ?』
千夏や愛美、他のキャストも衣装に着替えている。
あれから徐々にクラスメイトに協力を求め完成した大道具や小道具も運んできた。
本番まで残り30分という頃――。
「イインチョー」
「なに?」
「魔法使いがいないんだけど」
(…はぁ?)
魔法使いって、たしか……
山根。
「山根、来てないの?」
「寝坊でもしてんじゃないかな」
サイアクだ。
山根、お前ってやつは授業中イビキをかくだけじゃなくてこんなところでまでわたしを失望させるのか!?
山根がいなきゃヒロインが輝けない。
「シンデレラストーリーが……ただのいじめられっ子といじめっ子の悲劇で終わってしまう……」
「あはは」
「笑い事じゃないよ」
「イインチョーがやれば?」
「わたし?」
「台詞もそんなに多くないしさぁ。魔法かけるだけなら、誰でもいいやって山根になったよね」
それはそうだが。
わたしが? 出るの?
「衣装は?」
「山根のロッカーじゃないかな」
「……急いで見てくる」
「オッケー」