『誰にも言うなよ?』


「凄いなんてそんな……。誰でも作れる手抜き弁当だよ」


自分で言いながら、女子力のなさをアピールしてしまったことに気づく。


「だけどそれ作るために早起きしてるってことだろ? 考えらんねぇ」

「……朝、苦手なの?」

「ああ。つーか、このところ寝不足で」

「そっか……」

「ひと眠りしようかと思って来た。教室はうるせぇし」

「それじゃ、わたしはどこか別のところへ……」

「ここにいれば?」


そういって、青山くんがわたしに近づいてくると——お弁当箱からひょいと玉子焼きをつまみ食いした。


「先にいたの、あんたなんだし」


正論すぎて反論の余地がない。

が。


「なんだ。普通に美味いじゃん」



青山くんがっ……


「ごちそーさん」


わたしの焼いた卵焼きを

ぱくりと

食べた……!!!


「オヤスミ」

「お……おやすみ」


寝ちゃった。

コンビニ袋の中のモノに手をつけずに。


仰向けになって、すやすやと。

なんてマイペースな人なんだろう。


『普通に美味いじゃん』


勝手に、奪われてしまった。


不意打ちすぎるよ青山くん。


突然のことで心臓がバクバクだ。


そんなわたしの気など知りもせずに、王子様みたいな顔してすやすやと眠りについている。

< 82 / 540 >

この作品をシェア

pagetop