君が望んだ僕の嘘
第二章《緋色の花の下で》
1.緊急指令☆お腹のお肉を退治せよ
とかく、南の島いうものは、のんびりとしている。
海や緑や、人や生き物も。
ありとあらゆる全てが。
時間さえも、大河のように、ゆるりゆるりと穏やかだ。
「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・。
ファイトっ!もう二・三発!
頑張れっ、私!」
その穏やかな時の流れに逆らって、私は必死にウォーキングに励んでいた。
だって、仕方がないのだ。
我那波島に来て、まだ三日しか経っていないのに、私は太ってしまったのだから。
理由は簡単だ。
よしオバアの「カメーカメー(食べなさい食べなさい)攻撃」が、絶え間なく襲いくるからである。
「新しい水着も買ったのにっ。
このままじゃ着られないっ!
とにかく痩せなくちゃっ!」
あの「あおい海」を目の前にして、お腹が出たから泳げませんなんて、冗談じゃない。
故に私は必死に歩くのだ。
燦々と太陽降り注ぐ島道を。
かといって、せっかくの旅行先なのに、ジャージ姿で汗を流すのは、あまりにも空しいものだ。
だから、せめてもの慰めとして、私は白いワンピースを着込んでいた。
お気に入りの一張羅だ。
ふわふわと風に翻るフレアスカートが、いかにも乙女チックな一着である。
加えて、白レースの日傘まで差し、格好だけは良家のお嬢様スタイルを決め込んだ。
そうやって、せっせとカロリーを消費し、お腹のお肉を退治しているのである。
「うわっ!なにあれ!」
海風荘裏の小高い丘を登り切った時に、それは目に飛び込んできた。
目が覚めるような緋色をまとった木が、丘の上に立ち尽くしていた。
一瞬、木が燃えているのかとも思った。
それほどに鮮やかな緋色の花々が、一本の大木の梢に、たわわに咲き誇っていたのだ。
「あぁ、もしかしたら、この木が鳳凰木かな?
よしオバアが言ってた思い出の木ってヤツ」
怒濤の茶飲み話を思い出して、ほろ苦く笑った。
委細は恥ずかしがって教えてくれなかったが、この鳳凰木には、よしオバアと亡くなった旦那さんとの恋の逸話があるそうだ。
「鳳凰木はよ、オバアの思い出の木さぁ。
あのさ、うちのオジーが言うにはよ。
あの木はよ、夏の始めに、まず真っ赤な花が咲いて、ぼうぼうと梢を燃やすんだと。
それでよ、花の炎に耐えかねて、梢が花を落とす。
燃え落ちた花は、色褪せることもなく、大地を覆って焼き尽くす。
そうやって、夏の灼熱を連れてくる。
オバアはオジーにそう教えてもらったやさ。
一面に咲いた鳳凰木の花を見上げながらよ。
それからのことよ。
オバアは、鳳凰木がでーじ(とても)大好きになった。
ひゃーっ!
この年になっても、恋バナは照れるやっさ!」
丸太ん棒みたいな腕を戦慄かせて、身をよじるよしオバアは、とても可愛らしかった。
「恋・・ねぇ。
まあ、くったくたに疲れてきたところだし、御利益あるかも知れないし。
休憩ついでに一応拝んでおきますか」
彼氏いない歴イコール年齢の私は、歩き疲れた足をよろよろと引きずって、丘に立つ鳳凰木に歩み寄った。