fantasista
あたしは首を振る。
そして、大好きな戸崎に身を寄せた。
その固い胸板と、ほんのり漂うシトラスの香りと、戸崎の香りに酔う。
好きで胸がいっぱいになる。
「ごめんなさい……」
謝っても許されない。
だけど、謝らずにはいられない。
そんなあたしの頰に唇を付け、戸崎は耳に心地よく響く低い声であたしに告げた。
「俺はもう、山形しか見られねぇ。
だからお前も、よそ見しないで欲しい」
分かってる。
あたしはもう、戸崎しか見えない。
戸崎に思い知らせてやろうなんて、愚かなことは考えない。
だってあんなにチャラかった戸崎が、今はこんなにあたしを大切にしてくれる。