fantasista
「嫌ぁぁぁ!!」
あたしは力の限り、戸崎を突き飛ばしていた。
その強靭な肉体がまるでギャグのようにひっくり返る。
そんな戸崎の横で、ブラウスの前を掴んで、肩で息をしていた。
……駄目だった。
戸崎でも駄目だった。
いや……
戸崎だから余計に駄目なのかもしれない。
大好きな戸崎のあの光景は、いまだに悪夢のようにあたしの幸せを貪っている。
突き飛ばされたまま、ベッドに大の字に伸びる戸崎。
そんな戸崎から真っ赤な顔を背け、震えていた。
気まずい沈黙が続き、
「あのさー……」
戸崎がゆっくり口を開く。
「俺のこと、そんなに嫌か?」
嫌じゃない。
この五年間、戸崎のことしか考えられなかった。
久しぶりに会って、身体が電流を走った。
キスをして、ますます溺れた。
戸崎に会えて、すごく幸せだった。
でも……
あの日の記憶は思い出したくもないし、戸崎に言えるはずもない。