好きだから……
「悪いな。あいつ、中間試験で3位だったからめちゃ機嫌が悪いんだ。美島に負けるなら、あんなんにならねえんだけど。今回は、本田に負けたから」
「え? 美島君に負けるならいいの?」
「あ? ああ……お前と一緒だからな。あいつも。美島に片思いしてっから。まじ、八つ当たりさせて悪かったな」

 カナちゃんが両手を合わせて謝ると、青田さんの後を追って、道路を渡っていった。

 青田さんも、圭ちゃんが好きなんだ。
……ん? でもなんで、あたしに八つ当たりなんだろ?

 学校では、圭ちゃんと幼馴染なのを隠してるのに。
 地元が一緒なのも、同じマンションだったこともみんな、知らないのに。






「ん」と自然と漏れ出る声を、両手で口元を押さえて、必死に抑える。
 アパートだから、静かにしてろって圭ちゃんに言われてる。

 青田さん、圭ちゃんが好き……なんだよね。
 キレイで、頭がよくて。きっと圭ちゃんとも難しい話で盛り上がれる。

 スタイルも良いよなあ、青田さん。胸も大きいし、ウエストはしまってて。足は長くて、モデルさんみたい。

 見た目も良くて、頭も良くて。
 圭ちゃんと並んだら、絶対にお似合いだ。

「あ、や……絢」と圭ちゃんが、呟いてから今までにないくらいの激しい動きになった。

 あたしは、目に涙をためるとぎゅっと瞼を閉じた。口元を押さえていた手を、圭ちゃんの枕にやり、ぎゅうっと力の限り掴んで、辛さを拳にこめた。

 あたしが……あたしが、我慢しなきゃ。
 圭ちゃんのために。
 圭ちゃんが満足できるように。

 いつまでもあたしが、出来ない女だったら……青田さんのところに、圭ちゃんがいっちゃうかもしれない。

 そんなの嫌だ。絶対、嫌だ。
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