好きだから……
「みどり、夏休みはどこの夏季講習に行くんだ?」
「駅前の塾だけど。要も通うの?」
「いや。俺は進学を考えてないから」
「え? 初耳なんだけど」
「ああ、初めて言ったからな」
「なんで?」

 みどりが、ベッドに座って俺を見てきた。
 ベッドに横になってる俺は、「ん~」と唸った。

「要は、私なんかよりT大に行ける人間じゃない。どうして大学に行かないの!?」
「行く必要ねえし。美香の学費とか考えるとなあ~。親の遺産だけじゃ、ちょっと」
 みどりが目を伏せて、なんとも言えない表情になる。

 俺の両親は事故で、2年前に亡くなってる。
 今は親戚の人に保証人になってもらって、妹と二人暮らしをしている。

 両親が残してくれた大金とは言えない遺産と、俺の収入でなんとか生活が成り立ってる状態だ。

 みどりとは幼馴染だが、それは親が生きていたときまで。
 今は住んでる場所が違う。

 みどりが学校と家と、息苦しさを感じてどうしようもなくなったときだけ、俺たちには接点ができる。

 体だけのつながり。

 みどりが、美島を好きなのを俺は知ってる。
去年のクリスマス前に告白して、振られたことも聞いてる。

 一晩中の俺のアパートで泣いてたから。
 そこから俺たちの関係は崩れたのかもしれない。

 泣いてるみどりを、どう慰めていいのかわからなかった俺は、体の関係を保つことで、今のみどりを支えてる。

 父親母親ともに弁護士で、みどりの兄も弁護士志望で大学に通ってる。
 そういう家だから、みどりも弁護士をめざすことを余儀なくされてるし、優秀であることも求められてる。

 なのに、入学した高校には本田と美島の強敵ライバルがいて。

 みどりはさぞ、息苦しい人生になっているんだろうな、と俺は思う。
< 25 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop