好きだから……
 両親を亡くし、成績にケチをつける人間がいなく、自由気ままに過ごせる俺を見て、みどりは八つ当たりすることで、心の均衡を保ってるんだ。

 今日もまた、ひとしきり八つ当たりしてから、体を交えた。
 2ラウンド目を要求したから、命じられるままに開始したら、止められたけど。

 好きなヤツが、目の前で大嫌いな女に向かって『俺の、だから』発言されたら、気が狂いそうにもなるだろうな。

 さらに、美島と絢が幼馴染だったと知って。行き場のないドロドロした感情が、渦巻いたに違いない。

 絢はすげえいいヤツ。
 バカがつくくらい素直で、人を疑う心もなくて。まるでひな鳥みたいなヤツ。

 千里は、ぽわんとした綿あめみたいなヤツだな。
 一緒にいるだけで、和むっつうか。心穏やかになるっつうか。
 バカだけど、バカなりに一生懸命だな。
 料理がうまい。勉強はいまいちだが、料理ができる女は、京ちゃんじゃねえけど、バカでも生きていける。
 男を胃袋でつかんでしまえばいいんだから。

 絢は……料理は下手くそだし、バカだし。救いようがねえやつで、俺がいなきゃって思ってたけど。
 美島がいるんじゃ、俺に勝ち目はねえな。

 んで、次に放っておけないのがみどりだ。
 心の安定を保ってくれるヤツがデキれば、みどりはすげーイイ女になれるって思ってた。

 そいつが、みどりが恋した美島だったら……って思ってた。
 人生早々、うまくいかないもんだな。


「おい」と低い声がして、俺は振りけると「げ」と思わず、心の声が漏れ出てしまった。

 街中で、偶然にも美島に会ってしまうとは。
 最悪と思ってしまうのは、俺だけなんだろうな。

「ゲームの大量買いとは、いい身分だな」と美島が嫌味満載で、俺に声をかけてくる。

「あ?」と俺は手に持っている袋を目に落とした。

< 26 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop