好きだから……
―みどりside-
「どうだった? うまくいったか?」と自習室に入って美島の隣に座ると、声をかけてきた。

「ある意味成功。でも失敗。遅刻するから、行けって追い出された」
「真面目か。3バカのくせに。俺だったら遅刻させるけどな」
「圭一ならやりかねないね。遅刻どころか、休ませちゃうでしょ」
「たしかに。否定はしない」

 圭一がフッと笑みを零す。

 ちょっと前まで、この笑顔が私に向いてくれたら、って思ってたけど。
 今はなんとも思わない。ああ、土屋さんのことを考えると、そんなに顔が緩むんだって面白くなっちゃう。

 要が好き。どうしようもなく好き。
 誰にも渡したくない。
 本当なら、料理だって家事だって全部、私がやりたいくらい。

 大牧さんに頼むなんてしてほしくないのに。

 要は全然、わかってくれてない。私がどれくらい要が好きで、独占欲が強いかってこと。

 要が『カナカナ』だってわかってから、要は私を抱いてくれない。
 そういう雰囲気になるように、もっていっても上手くかわされてしまう。

 ズルい。私ばっかり、想いが大きくなっていく。

「そういえば、志望校変えたんだってな。かなり大学のランクも落として、法学部もやめたって……」
「うん。親の顔色を窺って、弁護士になる必要なくなったから。親にはめちゃくちゃ怒られたし、未だに志望校を元に戻すように言われてるけど、気にしない。やりたことが見つかるってこういうことなんだなって実感中。親に何を言われても、耳に入ってこないんだもん。今まで、親の顔色を気にして私がバカみたい」

「それ、バカは知ってるのか?」
「知らないはず。話してないし。話したら、親みたいにゴチャゴチャ言ってきそう」
「まあ、言うだろうな、あのバカは」
「もう! 要のことバカバカ言わないでよ。本当はすごく頭がいいんだから」
「知ってる。俺より、頭いいからむかつくんだよ」

 圭一が、ムッとした表情になる。
 圭一は知ってるんだ。要が頭いいこと。

「早めにバカには伝えといたほうがいいぞ」
「わかってる……けど、今は言いたくない。要と言い合いになりたくない。せっかく要といい関係になれたのに」

 そう、まだ壊したくない。
 今のこの状態を。幸せなんだから。

 塾に行く前に、要の家に行って朝食作って。
 塾が終わったら、要に会いに行って、大牧さんと一緒に夕飯の準備をしてから、家に帰る。

 壊したくない……。

―みどりside-終わり
< 39 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop