好きだから……
「また作ったときは、絢音ちゃん、お願いねえ」
「はい。ラインください。すぐに取りに行きますね」

 あたしはぺこりと頭をさげてから、おばさんと別れた。

 圭ちゃんは高校入学と同時に、家を飛び出して一人暮らしを始めた。
 中学3年のときに、両親が離婚した。

 理由はわからない。圭ちゃんは何も言ってくれないし、あたしの両親も何も話してくれないから。

 ずっと圭ちゃんが住んできたマンションには、おばさんだけが残った。
 圭ちゃんが出ていくとすぐに、おばさんには新しい生活が始まった。

 圭ちゃんは知っていたのかな?
 おばさんには、彼氏がいて。おじさんと別れて、すぐにその人と暮らすってことを。

 だからきっと圭ちゃんは出ていっちゃったんだ。
 高校の近くのアパートに。

「ただいま」と家に入ると、あたしはすぐに自室のドアを閉めた。

 ドアに背中を預けて、ずるずると床を滑りながら、座り込んだ。
 手に持っていた学生鞄から手を放して、口元に手を置くと、涙を流し、嗚咽を抑えた。

「こんなはずじゃ……」
 圭ちゃんはあんなに冷たくなかったのに。
 人を睨んだり、しなかったのに。

 傷口を理由に、体の関係を強要なんてしなかったのに。

「どうして……」
 変わっちゃったの、圭ちゃん。

『大丈夫だから。絢音は怪我してないよな?』って血だらけで、圭ちゃんのほうが大変なはずなのに、あたしの心配ばかりしていた圭ちゃんだったのに。

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