好きだから……
「とりあえず、中で」と俺がドアを大きく開けた。
「そうね。中で話させていただくわ」

 ダイニングキッチンに通すと、俺は冷えている麦茶を出した。
 向かい合わせに座ると、俺はみどりのお母さんの顔をまっすぐに見つめた。

「ここ数日のみどりの行動を、調べてもらったの」と探偵事務所のロゴの入った封筒を、テーブルに置いた。

 探偵を雇ったのかよ!
 そこまでするか? 性格的に丸くなって、前みたいに成績にビリビリしなくなったけど。
 それだけだろ?

「毎日、ここに通っているようね。朝と夕方に。帰りは手を繋いで、家の近くまで送ってきてる。どういうことかしら?」
「付き合ってます。この調査報告書にどのような記載をされているか知りませんし、気にもなりませんが。逆に、質問させてください。なぜ、そこまで? 成績は落ちてないし、9月の模試に向けて塾できちんと勉強しているはずですが?」

 みどりのお母さんの眉がぴくっと動いた。

「知らないの? あの子、志望校を変えたのよ? T大をやめて、レベルをかなり落として法学部じゃなくて、調理師になりたいって」
「え?」
「夏休みに入ってすぐのころよ。何度も考え直すように言ってるのに、聞く耳ももたないで。だから調べたの。そしたら、貴方の部屋に毎日通ってるなんて、見たくもないない結果を突きつけられるなんて」

「あいつ……志望校を」
 俺は手を口にあてた。

 何も言ってなかった。
 たしかに、性格的にまるくなって、成績に固執しなくなった。勉強する時間がかなり削られてるとは思ってたけれど、塾だって毎日通って、頑張ってると思ってた……。が、違うのか?

「知らないとは言わせないわよ? すべて、貴方の責任よ。幼馴染だからってみどりを家政婦のように使って。身体まで、傷つけるなんて」
「傷つけ……って」
「付き合ってるなら、そういうこともしてるんでしょ? ナイとは言わせないわ。何度か、首筋に痣があったのを見てますから」

 まずったな。
 みどりがつけろってせがんだときに、付けたが……。見られていたとは。
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