好きだから……
「今日は貴方に、これを置きにきたの。『誓約書』と『小切手』よ。貴方と縁が切れれば、みどりはいつものみどりに戻るわ。口で駄目だったから、今度は法的効力のある書類で、手を打たせていただきます」
「受け取る気はありません」

「言ったでしょ? 今日は置きにきたの。今のみどりは、みどりじゃない。貴方に抱かれて、愛されているような気がして、浮かれているだけ。子供の恋愛で、将来を棒に振るなんて、馬鹿な行為をしてほしくないのよ、みどりには」
「なら、俺に言うのではくて、みどりに言えばいいんじゃないですか?」

「言いましたよ。けど聞く耳をもたないから、貴方にも現状を知ってもらうために、話にきたの。生活、苦しいのでしょ? 妹さん、受験ですし。目を通すくらいは、いいんじゃない?」

 ニヤッとみどりのお母さんは笑ってから、席を立った。
「お邪魔しました」と意味ありげな言い方をして、探偵のロゴの入った茶封筒をもって、家を出ていった。

「……くしょっ! 足元見やがって」と俺は吐き捨てると、小切手の金額を睨み付けた。

 小切手には『2千万』と書いてある。

 みどりが弁護士志望に戻るなら、『2千万』くらいどうってことねえってことかよ。

「ふざけやがって」と俺はイライラを吐き出してから、作業部屋に向かった。










「要、これなに!?」と、作業部屋で編集作業をしていた俺に、みどりが声をかけてきた。

 俺はヘッドフォンを外すと、回転いすを回して部屋のドアのほうに目を向けた。

 みどりが、誓約書と小切手を手に持って、真っ青な顔をしていた。

 テーブルの上に置きっぱなしになっていたのを、塾が終わって家にきたみどりが見つけたのだろう。
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