好きだから……
『どこにも行くあてが無かったら、俺がもらってやる』
 先生に言われた言葉が、頭の中を横切る。

 たいてい先生が、美紅先生と親しげに話しているときに限って、先生に言われた言葉が脳内で木霊するのだ。

『行ける大学がない』と1年生のときに、ぽろっと先生に愚痴をこぼした。
 深く悩んでて相談というわけでもなく、ただ模試の結果を見て、口にした言葉だった。

 先生がにこっと笑って、わたしの頭をポンポンと優しくたたきながら、『もらってくれる』と話してくれた。

 先生にとって、あの言葉は本気なのか。嘘なのか。わたしにはわからない。

 先生が好きな私にとったら、うれしい言葉だったけれど。
 先生からしたら、『俺にもらわれるのが嫌だろうから、必死に勉強して大学に行けよ』という意味だったのかもしれない。

 先生の心が知りたい。でも怖い。知らないままのほうがいい。
 ぐるぐると同じ感情が、わたしの心を支配する。

 苦しくて切なくて、時々、とめどなく涙があふれてくる。
 わたしはこの先、どうしたらいいんだろう。







「……ったく。なんで俺まで駆り出されなきゃいけねえんだよ。ちくしょ」と、先生が文句をたれて、テントの中で長い足を放り出した。

 夏のプールサイド。
 先生持参のテントを広げて、休んでいる。テントの中でぐうたらしているのは、わたしと先生だけ。
 美島君、要ちゃん、絢ちゃん、みどりさんはプールに入って遊んでいる……というか、イチャイチャしてる、かな。
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