好きだから……
 先生は水着を着ているが、泳ぎもせず、ひたすらテントの中で過ごしてた。

 私はテントの隅で、膝を抱えて座ると、「へへっ」と苦笑をした。

 今日、先生が来るなんて知らなかった。絢ちゃんいわく、美島君の計らいらしいけれど……。
 美島君はなんでもお見通しだ。怖いくらいわたしたちの気持ちを察している。

 要ちゃんは、明るくてムードメーカ。空腹で倒れるまで仕事しちゃうのは別として、頼れる男子だ。

 美島君も頼れる点では、一緒なんだけど。要ちゃんのほうがハードルが低くて、相談しやすいかな。

 絢ちゃんは、素直でカワイイ女子。美島君のために一生懸命で、頑張り屋さんで。それに応えてくれる美島君がいて、うらやましいな。

 みどりさんも、夏休みに入ってからすごく親しみやすくなった気がする。
 きっと要ちゃんとうまくいってるからだと思う。

 わたしは……? と途端に、心が寂しくなる。

 望みの薄い河原 京平先生に片思いをしている。料理クラブで作ったお菓子や料理は、先生は笑顔で受け取ってくれるだけ。
 ただそれだけ。

 絢ちゃんや要ちゃんが羨ましいな。
 わたしもあんな風に、好きな人と一緒にいちゃいちゃしたい。

「千里、夏休みにクラブはねえのかよ」と先生がテントの中で、ごろんと横になりながら問いかけてきた。

「ない……ですねえ」
「マジかよ。なんでねえかなあ。陸上も、生徒会も夏休みに活動してんのに。料理がやってねえんだよ」
 愚痴ともとれるような言い方で、先生が呟き、そのまま目を閉じてしまった。
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