好きだから……
 そんなこと言われたって……。部長が夏休みはやらないって計画をたてたから。
 わたしにはどうしようもないもん。

 さらにわたしは身を縮めた。

「美紅先生にお願いしたらどうですか?」
「ああ? なにを?」
「料理。だって誰かに作ってもらいたいんですよね?」
「あぁ~、あいつは無理。料理できない女だから」

美紅先生を『あいつは』って呼べちゃうような仲なんだ。
中間試験後しばらくしてから、先生と美紅先生の仲が急展開した。

美紅先生の態度が、あからさまに柔らかくなった。先生に対して、だけ。

飲みに誘っても、容赦なく断っていた美紅先生が、断らなくなった。
きっと、先生は美紅先生と……。
 
 考えたくなく事実だけど、きっとそうなんだと思う。
 大人同士だもん。展開だって早いはず。

「てかさ、なんで千里は泳ぎにいかねえんだよ。ここの貴重品管理は俺だけで十分だろ」
「え? ……あ、うん」

 ただ一緒にいたい、っていう理由じゃダメなのかな。

「あの四人の中には入りづらい……かな」とわたしは苦笑した。

「あ~、そういえば。あいつらバカップル同士の組み合わせか! 千里があぶれるからって、要が俺を呼んだのか。この前、わざわざ学校に来て何かと思えば、『美島が呼べと言ったから、テントを持ってプールに来いよ。引率しろ』って言いやがって」
「先生、テントを持ってたんですか?」
「持ってるわけねえだろ! お前らのために買ったんだろうが」
「買ってくれたんですか?」
「まあ、な」と先生が恥ずかしそうに言うと、寝たまま、わたしに背を向けてしまった。

 今日のために、先生がテントを買ってくれたんだ。
 うれしいかも。
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