好きだから……
「先生、何か飲みますか? 買ってきます」
「ああ。コーヒーな。財布は鞄に入ってっから」
「え? わたし、お金持ってますよ」
「馬鹿か!? 生徒におごられる教師がいるかっての」
「引率してくれたお礼ってことで。テントも買ってくれたのに。何もできないのは……」
「あのなあ」と言いながら、先生が体を起こし、「ま、いいや。とにかく財布は俺のを持って買って来い。千里の分も、買ってきていいぞ。ぷかぷか漂ってるバカ奴ら分は買わなくていい」

 先生はそれだけ言うと、またごろんと横になった。

 わたしは先生の鞄から、黒革の長財布をとると、テントを出ていった。

 自販機って意外と.、遠いかも。わたしは、ビーチサンダルを足に引っかけると歩き出した。

 この水着、慣れないなあ……。

 絢ちゃんとみどりさんと一緒に買いにいった水着。店員さんにも、絢ちゃんとみどりさんにもすすめられたビキニ。

 わたしはワンピースで、上着付きのを買うつもりだったのに。

 三人に押し切られて買ってしまった……。絢ちゃんもみどりさんもビキニだったけど、二人ともその姿を見た美島君と要ちゃんにTシャツを着せられちゃって……。

 プールサイドにいるときは、Tシャツを着てろって。
 先生は「バカップルめ」って毒を吐いてたな。

「ねえ、君一人?」と背後から声をかけられて、わたしは振り返った。

 後ろにはこんがり日焼けしている同年代っぽい男子が二人で立っていた。

「わたし……ですか?」
「そ、君」
「一人じゃないです。友達たちと来てます」

「友達は?」
「いま、プールに入ってます」

 じりじりと男子二人が、近づいてくる。
 わたしは、間合いが狭まる恐怖にかられて、少しずつ後ろにさがった。

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