好きだから……
『絢、さっさと脱げ』って冷たい視線であたしを見て、ベッドに押した。
 一人暮らしを始める圭ちゃんの引っ越しのお手伝いに行った日に、あたしは抱かれた。
 嫌だというあたし、圭ちゃんは傷跡を見せて、「俺に逆らえんの?」って……。

 初めて抱かれてから1年3か月のときが過ぎた。
 圭ちゃんとの距離は開くばかりで、あたしの心は苦しくなる。

 どうしたらいいの?
 圭ちゃんが好きなの。
 でも苦しい。

 好きな人に抱かれるって、もっと幸せなんだと思ってた。
 大好きな圭ちゃんに抱かれたのに、涙しか出てこない。

 苦しくて、心が痛いよ。



「おい、コラっ! 3バカトリオ。相変わらずトリオってんじゃねえよ」
 2-Gの担任である河原 京平(かわはら きょうへい)先生が出席簿で凝っている肩をトントンと叩きながら、声をかけてきた。

 中間試験の結果が張り出されている廊下で、あたしと大牧 千里(おおまき ちさと)ちゃんと松平 要(まつだいら かなめ)くんが京ちゃんに出席簿の角で頭を叩かれていった。

「いたっ」とあたし。
「いた~い」とちぃちゃん。
「いってーな! 乱暴教師。いつか首になんぞ! 体罰だ」とカナちゃんが頭を押さえて、京ちゃんを睨んだ。

「これ以上馬鹿になりようがない頭に刺激をやってやったんだ。ありがたく思え、3バカトリオ」

 あたしとちぃちゃんとカナちゃんはいつも試験順位のラストを飾るので、今日ちゃんが「3バカトリオ」と名付けた。

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