好きだから……
「君は入らないの?」
「え? あ……はい。飲み物を買いに……」

「君、彼氏は?」
「え?」
「いるの? いないの?」

 なんで、そんなこと聞くの?
 これってまさか……ナンパっていうやつなのかな?

 初めてだから、何がなんだかわからない。
 こういうとき、要ちゃんがいれば……と思うのに。
 要ちゃんはプールだし。

 わたしはちらっと流れるプールのほうに、視線を動かした。
 多くの人が視界に入るだけで、要ちゃんたちの姿は見えない。

 困ったな~。

「千里」と、男子二人の後方から先生の声がした。
 プールサイドを裸足で悠然と歩いてくる。

 肩には白のTシャツをかけていて、先生がそのTシャツをわたしの眼前に投げてきた。

「コーヒー買ってくんのに、遅せえんだよ」と先生が男子二人の横を通り過ぎて、わたしの前に立った。

「あ、ごめんなさい」とわたしは先生のシャツをギュッと掴んで謝った。

「……んで、誰、あんたら?」と先生が振り返って男子二人に声をかけた。

「あ、いや。自販機……そ、自販機の場所を聞かれたから!」
「そうそう、教えてただけっす」

 男子二人が慌ててそう言うと、わたしたちから離れていった。

「……ったく。バレバレな嘘をつきやがって。クソガキが!」と先生が面倒くさそうにうなじを掻きながら、言葉を吐きだした。

「コーヒー、遅くてごめんなさい」と私は頭をさげた。

「しょうもない奴らに引っかかってたから、そう言っただけ。ああいう奴らには、威嚇が大事だからな。美島じゃないが、『俺の』とアピールしとかないと、また引っかかる。千里はソレ着て、テントに戻ってろ。俺が買ってくる」

 先生が、わたしの手にある財布をスッと抜き取ると、自販機に歩き出した。

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