好きだから……
「あ、ビーサン……」
「いらね」

 先生はスタスタと歩き、どんどんと距離があいていった。

「へえ~」と男の人の声がして、わたしは横に視線を動かした。

 となりには美島君がボールを小脇に抱えて立っていた。

「美島くん!?」と半分、悲鳴のようにわたしが声をだした。

「絢が、あんたが絡まれてるのを見つけたから。ボールをバカ奴らにぶつけてやろうかと思ったが……必要なかったみたいだな」
「引率者として責任を果たしたんだろ?」と後から来た要ちゃんが、美島君の肩を叩いた。

「引率者……として、ね」
 美島君が意味ありげな笑みを残して、プールへと戻っていく。

「京ちゃんが、着とけって言ったんだから。遠慮なくシャツ、着ろよ。この中で、一番お前がスタイルがいいんだから」
 要ちゃんがぺしっとわたしの頭を叩いて、美島君のあとを追いかけるように、プールに戻っていった。

『大牧は胸がデカいだけだろ』と美島君。
『世の男子は、胸のデカいビキニ女子に弱いだろ。それを見越しての、対京ちゃん戦法だったんだろ? 絢の考えそうな作戦じゃねえかよ』と要ちゃん。
『それが、他の男どもに引っかかるとは、な』
『ま、京ちゃんが止めたから、いいんじゃねえの?』

 美島君と要ちゃんの会話が、きっちりと耳に入ってくる。
 もうちょっと、わたしに聞こえないように話してほしかったな……。

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