溺愛CEOといきなり新婚生活!?
「天下だなんてやめてくださいよ。小泉先輩」
――先輩?
私がきょとんとしていると、永井さんは話もそこそこに引き上げ、待っている店員と歩き出した。
「上遠野さんも素敵な夜を」
雅哉さんは私に小さな声で言い残し、耳に携帯を当てながら店の外に出て行った。
嘘つき。携帯を確認する暇くらい作れるじゃない。昨日連絡をくれなかったのは、面倒だったからじゃないの? 相手の女性は、本当に取引先の人?
私が雅哉さんと近しくなったのも取引先という関係があったからだ。二年前のある日を思い出して、不安に押しつぶされそうになる。
「どうしたの?」
「あまりにも素敵なお店で、気後れしちゃって」
足が進まない私に気づいた永井さんは、数歩先から戻ってきてくれた。
「大丈夫。確かに一見さんはお断りしてるみたいだけど、気取った店ではないよ。店員さんもみんな気さくだから、美味しい食事を楽しみましょう」
腰に手をあてがわれ、紳士的にエスコートされる間も、頭の中では雅哉さんに言われた言葉が何度も響き、心はズキズキと痛む。
私を彼女だと永井さんに紹介してくれなかったのはどうして?