溺愛CEOといきなり新婚生活!?
それから五分ほどして腕を解いた永井さんは、おもむろに私の髪をそっと撫で、頬に手の甲を滑らせて見つめてきた。
「今日は疲れただろうから、ゆっくりお湯に浸かっておいで」
「……ありがとうございます。お先に入りますね」
シャワーの音にかき消されるだろうと、小さく嗚咽を漏らす。別れたわけでもないのに、心の奥が痛くて涙が止まらない。
サンプリングマリッジをしている手前、永井さんに気を使って私を紹介しなかっただけだと、都合よく解釈するけれど、今日の雅哉さんはいつもと違った。
「永井さん、お風呂空いたのでどうぞ」
「あぁ、わかった。ありがとう」
車内でも見ていたタブレットをテーブルに置いてソファから腰を上げた彼は、冷蔵庫から出したジャスミンティーをグラスに注いでいる私のもとにやってきた。
「今日も、あと少し起きててくれる? すぐ入ってくるから」
「……わかりました」
「上遠野さんの部屋にいていいからね」
言われたとおりに自室のベッドでアプリを起動させ、日記を書く画面を開いた。でも、今日は何も残せそうにない。