溺愛CEOといきなり新婚生活!?
それから一週間後。サンプリングマリッジ開始の五月二十日、土曜の午前十時。
待ち合わせに指定されたのは、都内でも指折りの高層タワーマンションのエントランス。私はその前で足を止め、五月の太陽が燦々と輝く空を見上げている。
約束の時間まであと五分。下ろしたままの髪と、白いマキシ丈のスカートが風になびく。
出入りするのは、どれもこれも高級車ばかり。
ぼーっと立っている私に多少の不審な目を向けつつ、運転している主婦と思しき女性はハンドルを切って走り去った。
ふと、マンション前の通りから入ってきた一台の上品なオープンカーに、行き交う人々も私も一斉に視線を奪われた。
「上遠野さんですか?」
マンションの地下にある駐車場へと車が向かう途中で、私に声をかけてきた男性に小走りで駆け寄る。
「はい、そうです」
「お待たせしてすみません。これ使って、中のロビーで待っていてください」
カードキーを受け取った私に、その男性は初夏の風にも負けないほどの爽やかな微笑みをひとつ残して、地下の駐車場へと車を走らせた。