たとえ僕がいなくても
出会いの春
それは桜が見事に咲いた四月のことだった。

「えー、今日から君達も本校の生徒としてー」

校長の長ったらしい話を聞いて、もう何分経つことか。

つまらない話ばっかり。
もっとやるべきことがあるでしょうに。

周りの生徒を見ると、うつらうつらしている人が多い、というか、ほとんどだった。

自分も寝てしまおうか。

そう思った時だった。

「ねぇ。ねぇって!」

隣からヒソヒソとした話し声が聞こえた。

『なんだ…?』

正直校長の話より、そっちの女子生徒2人組の方が気になった。

「隣の人、めっちゃカッコよくない⁉︎」

「分かる!私も思ってた!」

…まぁ、この手の話だろうとは思っていたが。

彼女たちが言っている『隣の人』とはもちろん僕のことだ。

自分で言うのも気がひけるが、昔から整った顔立ちのおかげで随分とモテてきた。

さらに、日本人には珍しい金色の髪、赤い目も目立っていたのだろう。

女子たちは僕の周りでキャーキャーと騒ぎ、

男子たちは頻繁に遊びに誘ってきた。

高校に入ると同時に、髪を染めようかとも思っていたが、染めても染めなくても変わらない。

どうせみんな、顔しか見ていないんだろう?

僕がどんな人間なのかも知らずに、よくカッコいいなどと言えるものだ。

本当の僕は、カッコいいとはかけ離れた人物だと言うのに。

「はぁ…」

思わずため息が出る。

高校でも、見つからないのだろうか。

僕が心から好きになれる人。

僕の中身まで愛してくれる人。

『…いるわけない、か。』

いつの間にか校長の話は終わっていたようで、僕を含む生徒全員が校歌を歌っていた。
< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop