しらゆき姫の心臓食べた、
◇ ◇ ◇
……身体が、だるい。
意識が浮上してまず最初に思ったのが、それだった。
それからどうしてか身動きがとれないことを疑問に感じ、重たいまぶたをこじ開ける。
「………」
目の前にあったのは、肌色の、自分とは別の人間の素肌。
そのたくましい胸板を確認したと同時に、昨晩の記憶が一気によみがえって頭を痛くさせた。
……酒に酔ってたわけでもないのに、私、職場の上司となんてことを。
身動きがとれなかったのは、どうやら日生課長が向かい合ったままがっちり私の腰に手を回して引き寄せていたかららしい。
もう片方の腕は私の頭の下にあるし、冷血だなんだと言われるこのひとは、こういった面で実は結構情熱的なひとなのかもしれない。
もうとっくに日は昇っている時刻なのだろう。カーテンで遮られているとはいえ、部屋の中はだいぶ明るかった。
これが平日だったなら飛び起きているところだけど、幸い今日は土曜日だ。仕事は休みだから、慌てることもない。
目の前の人物が未だ眠っているのをいいことに、まじまじとその顔を観察してみた。
いつもキッチリ後ろに撫でつけられている前髪がひたいにかかっているだけで、ずいぶん若々しく見える。決して普段が老けているというわけでなく、なんていうか、一応三十代前半のくせに貫禄あるんだよね課長。
意外と長いまつげに、すっと通った鼻筋、薄いくちびる。もう朝だから、少しだけ髭が伸びてきてしまっている。
間違いなく眠っているはずだけど、こんなときでも眉間のシワは健在だった。せっかく整った顔立ちなのに、これがあるから女性社員たちからも怖がられちゃうんだよなあ。もったいない。
このシワ何とかならないものかと、軽く人差し指で伸ばしてみる。
するとぴくりと課長のまつげが震え、そのままゆっくりとまぶたが持ち上げられた。
至近距離で視線が交わり、一瞬、時が止まってしまったかのように思う。