しらゆき姫の心臓食べた、
「とりあえずその肌、しまってくれないか。……目に毒だ」



言われてはたと気づく。そういえば、今の自分は素っ裸だ。布団に隠れているけど、たぶん、目の前にいるこのひともそうなのだろう。

つまり私、上半身を起こしたから、おへそから上が課長に丸見えの状態。ゆうべさんざん見たくせに、と思わないでもないけど、私だって露出狂でもないし羞恥心もあるので、素直に従うことにする。



「でも課長、今メガネしてないんだし、あんまり見えてないんでしょ?」



掛け布団を胸元まで引っ張り上げながら、思いついたことを言ってみる。

私から視線を外したまま、課長がなぜかまたため息を吐いた。



「本当はそこまで視力が悪いわけでもない。ほとんど伊達だ」

「ええ? なんでまた」

「俺の顔の問題なんだろうけど、あのメガネがあると厳しそうな人間に見えるらしいから。周りにナメられないためにかけている」



若くして課長という役職につく彼には、きっと私には知りえない苦労があるのだろう。答えるときの日生課長は、なんだかうんざりしたような顔をしていた。

その少し疲れた表情に母性本能を刺激され、きゅんと胸の奥が疼く。


思い返すと、そういえばゆうべも、ベッドになだれ込んで早々に彼はメガネを外していたような気がする。

昨日から今日まで、きっとあまり自分の姿は見えていないのだろうと油断していた部分もあったから、彼のこの話は今さらながら私を羞恥に陥れるのに十分だった。



「そ、そうなんですね……」



やばい、顔熱い。

掛け布団なんかじゃダメだと、ベッドの下に散乱するふたり分の衣服から自分のものを探す。

手こずりながら発掘したブラジャーを身につけたとき、あることに気づいて目をまたたかせた。



「あの、課長……」

「……なんだ」

「えっと、これって」



言いながら、ブラジャーを身につけただけの格好で日生課長と向き直る。

こちらと同じく上半身を起こした彼は、私が何を言わんとしているのかすぐに気づいたらしい。元から鋭い目を細め、せっかく先ほど私が伸ばした眉間のシワを濃くした。



「それは……」



言い淀んで、課長が一瞬目を泳がせる。

下着をつけたときに、私が見つけたもの。

それは左胸、心臓の真上あたりにくっきりと残された、赤いキスマークだった。

見たところ、身体の他の部分にはゆうべの情事を思わせる痕跡はない。ただ心臓のところにひとつだけ、けれども目立つ鮮やかな赤い色が残されているのだ。
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