【短】繰り返しの雨宿り



「すごい雨……」




 突然の雨だ。



 会社からの帰り。
 駅のホームに降り立った時には、美しい夕焼けの空だったように思う。もしかしたら、そうあって欲しいと願っての幻だったのかもしれない。



 とにかく自分の靴ばかり見つめていたものだから、空の変化に気づけなかった。



 まだ擦り切れた場所もない新しい黒靴が、空から舞い降りた雫に濡れる。そこでようやく私は雨に気づいた。



 ただ束ねただけの髪に、次々と吸い込まれていく雨。



 流れてくれば、化粧も悲惨なことになるかもしれない。
 もう帰るだけで身だしなみを気にすることはないが、地面から跳ね返るほどの雨に、さすがに足が鈍り始める。



 帰ることすら億劫で、雨の中を走る人々をただ見つめてしまう。



 が、その時だった。

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