【短】繰り返しの雨宿り
息をするのが苦しい。
どうやって息をするのかを忘れてしまったみたいだ。自分のこともわからなくなってしまった。
「俺が守ってやりたかったよ。千歳ちゃん。初恋の人。二十八歳なんて、若すぎるだろ」
わからない。
男性のことは知らない。男性のことだけじゃない。自分のことだって、わからない。
確かに、今日は会社に行ったのだ。行って、帰ってきたはずだ。
電車で……電車。電車?
深呼吸と一緒に入ってきた珈琲の香り。
一気に流れ込んできたと同時に、次々と記憶の波に襲われる。
けたたましい音。人々の叫びとざわめき。ブレーキ音と赤。
赤、赤、赤……血……。
「私、自殺した……」