【短】繰り返しの雨宿り
そうだ。
なぜ忘れていたのだろうか。何度も、思い出しては忘れてしまう。
私はもう、生きてはいないのに。
「私は死んだ」
この男性は教えてくれる。
私が千歳であること。私が自殺をしたこと。私が二十八歳で死んだこと。
いつも、同じように教えてくれる。
とても優しくしてくれる人。
そんな大事なことも忘れてしまうなんて。
忘れたくないのに……。
「……もう、何度目になるの?」
「知らない方がいい」
「まだ、許されないのね」
マスターが黙って割れたグラスを片付ける。
カチャカチャといわせながら、マスターはまた奥へいなくなった。