【短】繰り返しの雨宿り


 その時、マスターが目の前にカップを置く。



 私の好きなカフェオレだ。
 立ち上る湯気に、珈琲と甘い香り。



 喫茶店にいつもと同じ珈琲の優しい香りがするのに、今までどうして気づかなかったのか。不思議でならない。



 本当はこの香りにも気づいていたはずだ。



 それを遠くに追いやってしまったのは、珈琲の香りとともに悲しい記憶を思い出すから。



 思い出せば、また繰り返さなければならない恐怖を呼び起こすからだ。




「こんなことをして大丈夫なんですか?」

「ん?」




 その疑問を今まで聞いたことがなかった。



 男性は決められた時をしっかり生き抜いた人。こんな場所にいていいはずがない。

< 18 / 25 >

この作品をシェア

pagetop