【短】繰り返しの雨宿り
その時、マスターが目の前にカップを置く。
私の好きなカフェオレだ。
立ち上る湯気に、珈琲と甘い香り。
喫茶店にいつもと同じ珈琲の優しい香りがするのに、今までどうして気づかなかったのか。不思議でならない。
本当はこの香りにも気づいていたはずだ。
それを遠くに追いやってしまったのは、珈琲の香りとともに悲しい記憶を思い出すから。
思い出せば、また繰り返さなければならない恐怖を呼び起こすからだ。
「こんなことをして大丈夫なんですか?」
「ん?」
その疑問を今まで聞いたことがなかった。
男性は決められた時をしっかり生き抜いた人。こんな場所にいていいはずがない。